セーフティーネット
- 2021年01月30日
「最終的には生活保護がある。」
コロナ禍でとりわけ大きな打撃を受けた飲食・サービス業やそこで働くパート・非正規雇用の失業、職を失い政府の支援が行き届かず生活に困窮する人、そして、困窮してまでもなお生活保護に頼らず、自分で何とかしようと路上にしか行き場が無くなった人達、とりわけ女性の貧困、この方々に我が国の総理が贈った言葉です。
役所の窓口に生活保護の申請に訪れたら、「親族で扶養して貰うことが出来ないのですか。」と尋ねられ、「先ずは相談してみてください。」と追い返されます。
これが、俗に言う「水際作戦」です。
生活保護は申請主義ですから、生活保護世帯が増えることを水際で排除し申請までに至らせないようにします。
なぜならば、生活保護費は国が4分の3、自治体が4分の1を負担することから、生活保護が増えれば自治体財政を圧迫すると考える首長や生活保護担当の管理職がいて、支出を抑えるため部下に窓口段階で申請に至らせないように対応させるからのようです。
本来、生活保護は憲法第25条「すべての国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」という条項を具現化するために国家責任で生存権を保障する制度で、自治体本来の事務では無く国からの法廷受託事務です。
簡単に言うと、国が一人一人の生活保護の事務を行う事が困難であることから、居住する自治体にその事務を委任するもので、保護費の100%を国庫負担金で賄うべきものが、国は市町村にも負担も求め今の負担割合になりました。
この負担に対し、全国市長会など地方関係団体は全額を国庫負担にすべきだと主張しています。
したがって、自治体は生活保護世帯が増えると自治体財政を圧迫するという理由を持ち出しますが、システム的には自治体の支出が増え、財源が不足する場合には総務省から地方交付税が交付されます。
この地方交付税は一定の算定基準がありますが、交付された財源の使途に制限はありません。わかりやすくいえば自前の税収と同様に一般財源として使えます。
これまで、生活保護世帯への支出が増えすぎて自治体財政が逼迫したという自治体は聞いたことがありません。
つまり、水際作戦を行って生活保護世帯数を抑えることに何の意味も無いのです。
日本は生活保護捕捉率(受給要件を満たしている低所得の方が実際に受給している率)が全体の18%程度になっていますが、世界を見るとドイツが64.6%、フランスが91.6%、イギリスが90%、スウェーデンが82%となっています。
人口に対する生活保護利用率は、日本が1.6%、ドイツが9.7%、フランスが5.7%、イギリスが9.3%、スウェーデンが4.5%となっています。
日本は、国民の貧困率が約16%に達していながら、この方々の保護率は約1.6%となっており、先ほども申し上げましたが、我慢している方が多く、水際で抑えていることも保護率の低さにつながっています。
話は戻りますが、生活保護を申請すると、役所から親族に「この人が生活保護の申請に来ていますが、あなたは扶養(援助)出来ませんか」と連絡が行ってしまいます。
しかし、扶養(援助)をして貰えるのであれば、最初からそうしているはずです。
多くは、複雑な家庭状況から相談が出来ないか知られたくないのが現実で、2017年の調査では、2016年7月に保護を開始した1.7万世帯に対し、扶養照会件数は計3.8万件、そのうち金銭的援助が可能と回答したのは約600件で3.5%となっていますが、援助は継続せず、最初の1回だけと言うケースが大半です。
そして次は役所にも相談に行かなくなります。
「扶養照会」は法律で定められた義務ではありません。
そして、生活保護は申請主義です。窓口で何を言われても「申請する」とはっきり伝えて申請手続きを行いましょう。そして生きていきましょう。
ちなみに生活保護の「不正受給」を言われる方がいますが、直近のデーターでは保護世帯の1.8%となっています。もちろん悪質な不正受給には厳しく対処する事が必要ですが、冷静に捕捉率を考えれば8割以上の数百万人が生活保護から漏れています。
そして、「餓死」や「孤立死」という悲しい事件につながっています。
「最終的には生活保護がある」と言うのであれば、「扶養照会」などをしないで捕捉率を上げるよう水際作戦など止めさせることでは無いでしょうか。