基地局と行政の質の低下(ブログ3603)
- 2024年06月13日
世界自然遺産・知床半島の先端に携帯電話の基地局を整備するため、その電力確保が必要として、2km手前の自然遺産地域内にサッカーコート大の敷地を開発、そこに太陽光パネル260枚超を設置する工事と送電線を埋設する工事が遂行されようとしています。
ご存じのように、知床観光船「KAZUⅠ」が浸水を起こし水没した事故後、船長の携帯電話が通話圏外だったので状況把握が遅れた、ということが指摘されて通信環境を整備することが、当たり前のように言われていました。
しかし、そうだったのでしょうか。
事故を振り返ると、≪「KAZUⅠ」が所属する「知床遊覧船事務所」の無線機器は、事故以前から破損しており、使用出来ない状況にありましたがこれを修理すること無く、本来、業務使用を認められていないアマチュア無線で運航されていました。事故当時、KAZUⅠが帰港していない事に気づいた別の運行会社の従業員が自社の無線を使用して状況確認をすると、「カシュニの滝にいる。戻るのに時間がかかる」との交信後、「エンジンが止まり、船が前の方から沈んでいる。そのうちバッテリーが落ちる。」との応答があり、この交信をした従業員が船長に118番通報(海での事故など・緊急通報番号)をするように伝え、その後に無線機のバッテリーが使用出来なくなり、船長は乗客の携帯を借りて118番通報しました。
その他にも乗客の何人かは、自身の携帯で家族へ通報をしています。
ここで分かることは、無線で地上との交信が出来たこと(知床遊覧船事務所は無線アンテナの修理をしていなかったが、他の運行会社の無線で通信できた)。
そして、乗客の携帯を借りて118番通報を行ったことや、乗客が携帯を使用して家族と連絡をとっていたこと。つまり、携帯通話が可能だったことです。
事故は、携帯電話が通話圏外だったことから状況把握が遅れたのでは無く、「知床遊覧船社長」が、船体の整備や自社の無線整備を怠ったこと、経験不足の従業員に船長を任せていたこと、天候が悪い中、運行を強行したことが主原因だったはずです。
知床世界自然遺産地域は、人の手が入らない自然がそのまま残されていること、そこには希少な動植物が生息していることが世界的にも認められ、その景観が維持されることを条件に認定されましたし、同時にこの地域は国立公園・特別保護地区に指定されており、自然公園法で開発禁止地区に指定されています。
この基地局設置には政府の総務省・環境省・国土交通省が関連工事の許認可を持っていますが、この3省庁が連携して協議を行ったとは言い難く、縦割りの行政を行っていたことが、関係者の協議が不十分のままに工事が遂行されるという結果を招いたものだと思います。
一方で、漁業者の安全も大事ですが、携帯以外に通信方法が無いわけではなく、無線や通信衛星という手段もありますから、「100か0か」では無く、共存できる道を探るのも行政の役割だと思います。
一度開発してしまった自然は、元に戻るまで永い時間が必要になってきます。いやもう戻らないかもしれません。そして、この開発は、世界自然遺産を指定したユネスコにも報告していないことも明らかになっています。日本の行政はここまで質が低下してしまったのでしょうか。