日本の緊急事態条項(ブログ3766)
- 2024年12月06日
今回の韓国の「非常戒厳令」で、自民党などが憲法改正で主張している「緊急事態条項」が注目を浴びています。
自民党の改正草案では、第98条1項に<内閣総理大臣は、我が国に対する外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、地震等による大規模な自然災害その他の法律で定める緊急事態において、とくに必要が有ると認める時は、法律の定めるところにより、閣議にかけて緊急事態の宣言を発することが出来る。>ということになっています。
そして第99条にはより具体的に表現をしていますが、緊急事態宣言が持つ強大な権限は、国民や地方自治体を含めて多くの問題を抱えます。
憲法学者の木村草太氏によると、<第1に、内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定できるとありますが、国会の十分な議論を経ずに国民の権利を制限したり、義務を設定したりする事が出来ます。つまり、政府が求める事を国民に強制できることになります。
また、刑事訴訟法の逮捕の要件を内閣限りの判断で変えてしまったり、裁判所法を変える制令を使って裁判所の権限を奪ったりすることも可能となります。
第2に、予算の裏付けなしに「財政上必要な支出、その他の処分」を国会の承認なしに行う事が出来る」ことになり、国会の監視が及ばない中で不公平に復興予算をばらまくことも可能です。
第3に、「地方自治体の長に対して必要な支持をすることが出来る。」つまり、地方自治を内閣の意思で制限できるということで、首相の意に沿わない自治体の長に「辞任の支持」を出すようなことも考えられます。ドイツのワイマール憲法は緊急事態条項を利用して、社会党系のプロイセン政府の指導者を罷免、今の日本に例えると首相が辺野古基地問題で対立する玉城沖縄県知事を罷免するようなもの。
第4に、緊急事態中は、基本的人権の「保障」は解除され、「尊重」に止まることになる。つまり、内閣は「人権侵害をしてはいけない」という義務から解かれ、内閣が「どうしても必要だ」と判断しさえすれば、人権侵害が許されることになり、報道の自由が確保されず、土地収用など財産権侵害にも歯止めがかからなくなるかもしれない。
これをまとめると、『内閣は、曖昧かつ穏やかな条件・手続きの下で、緊急事態を宣言できる。そして緊急事態宣言中は、三権分立・地方自治・基本的人権の保障は制限され、というより、ほぼ停止され、内閣独裁という体制が出来上がる。』これは、緊急事態条項と言うより、内閣独裁権条項と呼んだ方が正しい。>と指摘しています。
韓国の「非常戒厳令」は、軍の出動に猛反発したた国民の抵抗と、夜中に参集した国会議員の190名(定数300名)の戒厳解除要求決議によって6時間後には解除されましたが、これが仮に日本で起きた場合、韓国の国民のように軍に対して命を張って民主主義を守ろうと抵抗する日本人が果たしてどれほどいるでしょうか。
心配なのは、ほとんどの国民が人ごとのように無関心でいることです。自ら民主主義を守ってこなかった日本国民は、誰かが何とかするだろうと傍観するだけでしょう。そして、それは日本が民主主義を失うと言うことに繋がることなのだと思います。